タイ・ベトナムのクラウド利用環境とは?現地法人が導入時に確認したいポイント

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タイとベトナムでは、クラウドサービスの選択肢が広がる一方、利用できるリージョンやネットワーク環境、データに関する法規制は同じではありません。日本本社で採用している構成も、現地の条件に合わせて見直す必要があります。 

たとえばタイでは、AWSやGoogle Cloudの国内リージョンを利用できます。一方、ベトナムでは、AWSのハノイLocal Zoneや国内クラウド、シンガポールなどの海外リージョンを組み合わせる構成も選択肢です。 

この記事では、タイ・ベトナムのクラウド利用環境の違いを整理し、データの保存・国外移転、利用サービス、通信経路、本社と現地法人の運用分担など、導入前に押さえたいポイントを解説します。

タイとベトナムではクラウドを取り巻く環境が異なる

タイでは大手クラウド事業者の国内リージョンが相次いで開設されています。ベトナムでもクラウド基盤の整備は進んでいますが、利用できる環境や選択肢にはタイとの違いがあります。

タイでは国内リージョンを選べるクラウドが増えている

AWSは2025年1月、AWS Asia Pacific (Thailand) Region(ap-southeast-7)の一般提供を開始しました。タイでは初となるAWSリージョンで、3つのアベイラビリティーゾーン(AZ)で構成されています。Google Cloudも2026年1月、バンコクリージョン(asia-southeast3)を開設しました。

ネットワーク面では、バンコクのTCC Data CenterとTelehouse BangkokでAWS Direct Connectを利用できます。パブリックインターネット経由だけでなく、AWSへの専用接続を含めた構成を選べる環境が整っています。

これまで東京やシンガポールのリージョンを利用してきた企業も、タイ法人のシステムを国内に配置できるようになりました。 

もっとも、既存システムをタイリージョンへ移せばよいとは限りません。利用できるサービスや料金、既存システムとの接続、バックアップ、DR(災害復旧)を比較して判断します。 

ベトナムでは「海外リージョン+国内基盤」の組み合わせも現実的

AWSは2026年6月、ハノイでAWS Local Zone(ap-southeast-1-han-1a)の一般提供を開始しました。これはベトナム国内にAWSリージョンが新設されたものではなく、シンガポールリージョンを親リージョンとして、一部のAWSサービスを利用者の近くへ拡張する仕組みです。

2025年12月には、ハノイのCMC Towerにベトナム初のAWS Direct Connectロケーションも開設されました。

ベトナム国内には、Viettel Cloud、FPT Cloud、CMC Cloudといったサービスもあります。FPT Cloudはハノイやホーチミン市などのデータセンターを利用しており、CMC CloudはAWS、Google Cloud、Microsoftのクラウドへの接続にも対応しています。

ベトナムでは、海外リージョン、AWS Local Zone、国内クラウド、データセンター、オンプレミスを用途に応じて使い分ける構成も選択肢です。 

一方で、基盤を増やせば構成や運用も複雑になります。AWS Local Zoneで提供されるサービスにも制約があるため、処理をどこに置くのか、誰が運用するのかまで含めた設計が欠かせません。

日本本社が誤解しやすいクラウド導入のポイント

クラウドの選定では、リージョンやサービスだけでなく、現地のデータ保護や国外移転に関するルールも判断材料になります。

「データを国内に置けば法規制に対応できる」とは限らない

タイでは、個人データの取り扱いにPersonal Data Protection Act B.E. 2562 (2019)、いわゆるPDPAが適用されます。ただし、すべての個人データをタイ国内に保存することを一律に義務付ける制度ではありません。

国外へ個人データを移転する場合は、PDPA第28条・第29条などに基づき、移転先のデータ保護水準や移転方法を検討します。十分な保護水準が認められない場合には、Binding Corporate Rules(BCR)やStandard Contractual Clauses(SCC)などの保護措置を用いる仕組みがあります。

ベトナムでは、2026年1月1日から個人データ保護法(Law No. 91/2025/QH15)とDecree No. 356/2025/ND-CPが施行されています。従来のDecree No. 13/2023/ND-CPだけを前提にせず、現在の制度に沿った対応が求められます。

新しい個人データ保護法では、ベトナム国内で収集した個人データを国外サーバーへ移すケースに加え、国外のプラットフォームで処理する場合なども「越境移転」に含まれます。原則として、越境移転を行う事業者には影響評価書類の作成・提出などが求められるため、シンガポールのクラウドリージョンや国外SaaSの利用も確認対象になります。

Law on Data No. 60/2024/QH15やDecision No. 20/2025/QD-TTgでは、「重要データ(important data)」「コアデータ(core data)」の区分も定められています。扱うデータによって適用されるルールが変わるため、サーバーの所在地だけでは判断できません。

クラウド構成を決める際は、バックアップやログ、日本本社への転送、国外からのアクセスも含め、データの保存先・移転先・処理主体を把握します。 

なお、法令やガイドラインは改正や運用変更の可能性もあるため、実際のクラウド構成を決める際は、最新情報を確認したうえで、自社の法務・セキュリティ担当者や必要に応じて専門家とも確認してください。

「本社で採用しているクラウドをそのまま展開する」だけでは決められない

日本本社でAWSやMicrosoft Azureなどを標準化していても、現地法人では構成の見直しが必要になる場合があります。リージョンによって提供サービスが異なるほか、ネットワーク、データ保管要件、現地ベンダーの対応範囲も変わるためです。

たとえば、これまでAWSのシンガポールリージョンを利用してきたタイ法人では、タイリージョン開設後は国内配置も比較対象になります。

ベトナムのハノイLocal Zoneでは、Amazon EC2、Amazon S3、Amazon EBS、Amazon ECS、Amazon EKSなどがローカルで提供されていますが、シンガポールリージョンの全サービスをそのまま利用できるわけではありません。

技術構成とあわせて見ておきたいのが管理体制です。現地システムの配置先を本社が把握していない、クラウドアカウントや管理者権限を現地ベンダーだけが保有している、本社からログや利用料金を確認できない、といった状態では、障害やセキュリティインシデントへの対応が難しくなります。

アカウント管理やセキュリティの基準は本社でそろえ、リージョンやネットワークなどは現地事情に合わせる。こうした役割分担の方が、ガバナンスと現地運用を両立しやすくなります。

現地法人のクラウド運用で起こりやすい問題

クラウドそのものが正常でも、通信環境や管理体制が原因で業務に支障が出ることがあります。海外拠点では、クラウドの外側にあるインフラや運用も含めて見ておく必要があります。

海外リージョンを利用すると、国際回線もシステムの一部になる

ベトナムからシンガポールなど国外のクラウドリージョンへ接続する場合、国際回線の状態が業務システムの使い勝手や安定性に影響します。

ベトナムでは海底ケーブルの障害によって海外向け通信が遅くなり、日本本社とのオンライン会議やVPN接続、海外クラウドへのアクセスに影響することがあります。海底ケーブル障害による通信への影響や対策については、関連記事「ベトナムで海底ケーブル障害が起きたら?」で解説しています。

AWSでは、2025年12月にハノイのCMC TowerへDirect Connectロケーションが開設され、2026年6月にはAWS Local Zoneも一般提供されました。ベトナム国内からAWSへ接続する方法は以前より増えています。

回線の冗長化は、システムの重要度に応じて決めます。インターネットVPN、バックアップ回線、Direct Connectなどから、必要な可用性に合う構成を選びます。 

現地任せで導入すると、本社からクラウド環境が見えなくなる

タイやベトナムの現地法人では、専任のクラウド担当者を置かず、PC管理、社内ネットワーク、業務システム、ベンダー対応などを少人数で担当しているケースがあります。担当者の交代時に設定内容や管理者情報が十分に引き継がれず、新しい担当者がIT環境の把握から始めるケースもあります。

次のような状態に注意が必要です。

  • AWSアカウントの管理を現地ベンダーだけに任せている

  • 管理者に担当者個人のメールアドレスを使用している

  • 本社から構成変更やCloudTrailなどのログを確認できない

  • 本社が把握していないクラウドやSaaSを現地部門が契約している

  • 担当者の退職時にアカウント情報や運用手順を引き継げない

通常運用では表面化しなくても、障害やセキュリティインシデントが発生すると、こうした管理上の抜けが対応を遅らせます。

構築や運用を現地ベンダーへ委託する場合も、本社からアカウント、権限、構成、ログ、コストを把握できるようにします。 障害時の一次対応やベンダーへの連絡担当も、平常時に決めておく方がスムーズです。

タイ・ベトナムでクラウドを導入する前に確認したいポイント

導入前に確認したいポイントは、次の4つです。 

1.扱うデータと保存・移転先を整理する

まず、クラウド上で扱うデータとその流れを洗い出します。

  • 顧客や従業員の個人データを含むか

  • 本番データやバックアップをどの国に保存するか

  • 現地法人から日本本社へデータを送るか

  • ログや監視データが国外へ転送されるか

  • 日本など国外の運用担当者がデータへアクセスするか

タイではPDPA、ベトナムでは個人データ保護法やデータ法などが関係します。クラウド事業者やリージョンを選ぶ前に、データの種類と移動経路を整理します。 

2.「リージョンがあるか」ではなく、必要なサービスが使えるか確認する

タイではAWS Asia Pacific (Thailand) RegionやGoogle Cloud Bangkok Region、ベトナムではAWS Singapore Region、AWS Local Zone Hanoi、Viettel Cloud、FPT Cloud、CMC Cloudなどが候補になります。

選定時には、Compute、Database、Object Storage、Backup、Logging、Security、DRなど、システムに必要な機能をどこで利用できるのかを洗い出します。リージョン名だけを見るより、実際のシステム構成に沿って比較した方が判断しやすくなります。

3.クラウドまでの通信経路を確認する

現地ISP、国内回線、国際回線など、クラウドへ到達するまでの経路も設計対象です。

接続方法には、インターネットVPN、AWS Direct Connectなどの専用接続、国際専用線、バックアップ回線などがあります。求める可用性や業務への影響度に応じて組み合わせます。

あわせて、「クラウドは正常だが現地から接続できない」ケースを想定し、クラウド事業者、通信事業者、現地ベンダーそれぞれの対応範囲を決めておくと、障害時の切り分けがしやすくなります。

4.本社と現地法人の管理範囲を決める

クラウド導入後の役割分担も、設計段階で決めておきます。

  • クラウド契約

  • アカウント・権限管理

  • 構成変更

  • 監視

  • 障害対応

  • セキュリティ対応

  • コスト確認

  • 現地ベンダーとの連絡

すべてを日本本社で抱える必要はありません。現地法人や外部パートナーが担当した方が迅速に対応できる業務もあります。

一方、本社から構成、権限、ログ、利用料金を把握できなければ、統制は効きません。誰が運用し、誰が状況を把握し、トラブル時に誰が判断するのか。この3点が明確になっていれば、現地へ運用を任せてもブラックボックス化しにくくなります。

まとめ|国ごとの条件を踏まえてクラウド構成を選ぶ

タイでは国内リージョンが選択肢に加わり、ベトナムでは海外リージョンと国内基盤を組み合わせた構成も検討できます。

クラウドを選定する際は、データの保存・移転、必要なサービス、通信経路、運用体制を国ごとに整理し、日本本社のガバナンスと現地での運用を両立できる構成を検討します。

ただし、現地の法規制やネットワーク環境、利用できるクラウドサービスまで含めて自社だけで判断するのが難しいケースもあります。Managedex Cloudでは、タイ・ベトナムの現地事情を踏まえたクラウドの設計・導入・運用を支援しています。現地法人のクラウド環境に課題がある場合は、お気軽にご相談ください。

松岡 憲太
記事を書いた人
松岡 憲太

株式会社サーバーワークス・海外事業室
大手通信事業者にて、国内外インターネットバックボーンや海底ケーブルの運用保守、日系企業向け通信インフラの提案・構築に従事し、海外ではマレーシアのネットワークオペレーションセンター立ち上げ、中東・アフリカ地域では海外営業から現法社長として経営管理まで幅広く経験。サーバーワークス入社後は海外事業専属として、ASEAN地域の日系企業向けAWS導入・運用支援や海外拠点の立ち上げ等を牽引。趣味は旅行と釣り。

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