- 復旧
AWSを導入してから構成や設定を見直していない場合、不要なコストや権限設定の不備、障害時に復旧しにくい構成が残っている可能性があります。一方で、「AWS環境診断」がどこまでを対象とし、脆弱性診断やセキュリティ設定診断と何が違うのかは分かりにくいものです。
この記事では、AWS環境診断で確認する項目や実施の流れ、外部へ依頼する際の判断基準を整理します。診断で見つかった課題に優先順位を付け、構成変更や運用改善へつなげる方法も解説します。
AWS環境診断とは、AWS環境の構成、セキュリティ、コスト、可用性、運用状況などを点検し、改善すべき課題を整理するサービスや取り組みの総称です。診断範囲は、提供会社や目的によって異なります。
導入時には適切だった構成も、利用規模やシステム要件の変化、担当者の交代、組織体制の変更によって、現在の状況に合わなくなることがあります。使用していないリソース、必要以上に広い権限、更新されていない復旧手順などが、そのまま残るケースもあります。
AWS環境診断では、個別の設定だけでなく、システム全体を横断して課題を整理します。診断結果をもとに、設定変更、構成の見直し、運用ルールの整備へつなげます。
AWS環境診断と、脆弱性診断、セキュリティ設定診断では、確認する範囲が異なります。
診断の種類 | 主な確認対象 | 目的 |
AWS環境診断 | 構成、可用性、コスト、セキュリティ、運用体制 | AWS環境全体の課題を把握し、改善方針を決める |
セキュリティ設定診断 | IAM、ネットワーク、ログ、暗号化、公開設定 | 設定不備や権限管理上のリスクを確認する |
脆弱性診断 | OS、ミドルウェア、アプリケーション、公開ポート | 攻撃に利用される可能性のある脆弱性を確認する |
セキュリティ設定診断と脆弱性診断は、AWS環境のセキュリティを評価するための手段です。一方、AWS環境診断では、可用性、コスト、監視、バックアップ、運用体制まで対象に含めることがあります。
診断範囲はサービスによって異なるため、外部へ依頼する際は、名称ではなく具体的な診断項目と成果物を確認します。
AWSでは責任共有モデルが採用されており、AWSはクラウド基盤のセキュリティを担います。利用者は、使用するサービスに応じて、データ、アクセス権限、OS、アプリケーション、ネットワーク設定などを管理します。AWS環境診断では、主にこの利用者側の管理範囲を点検します。
AWS環境を評価する際の基準として活用されるのが、AWS Well-Architected Frameworkです。
AWS Well-Architected Frameworkは、AWS上のシステムを設計・運用する際の考え方とベストプラクティスをまとめたもので、次の6つの柱から構成されています。
運用上の優秀性
セキュリティ
信頼性
パフォーマンス効率
コスト最適化
持続可能性
この枠組みを使うと、特定の設定に偏らず、現在のAWS環境を複数の観点から評価できます。実際の診断では、システムの重要度、予算、利用規模、社内の運用体制に応じて、必要な改善策を選びます。
AWS環境診断は、重大な障害やセキュリティ事故が起きた後だけに行うものではありません。利用状況や運用体制が変わった段階で見直すことで、設定不備やコスト増加を早期に把握できます。
次のような状況は、診断を検討する目安です。
AWS導入後、構成や設定を長期間見直していない
AWS利用料が増えている原因を把握できていない
設計や運用を担当していた社員が異動・退職した
障害発生時の復旧方法やバックアップに不安がある
権限設定や外部公開範囲を改めて確認したい
システムの拡張、統合、移行を予定している
監査や社内のセキュリティ基準へ対応する必要がある
特に見直したいのは、導入当初よりもシステムの重要度が高まっているケースです。小規模な業務システムとして始めた環境が、数年後には事業を支える基盤へ拡大することもあります。役割の変化に応じて、可用性、バックアップ、監視、権限管理の水準も調整する必要があります。
AWS利用料が増えている場合は、リソースを減らす前に、性能や可用性への影響を確認します。そのうえで、現在の利用実態に合った構成へ見直します。
診断範囲は、AWS環境の規模や課題によって変わります。ここでは、環境全体を見直す際に確認したい4つの観点を取り上げます。
システムを支えるリソースが一つのアベイラビリティーゾーンや単一のリソースに依存していると、障害時にサービス全体が停止する可能性があります。
構成・可用性の診断では、冗長化の状況、障害時の切り替え方法、負荷増加への対応、復旧手順などを確認します。
具体的には、次のような点が対象です。
単一のアベイラビリティーゾーンやリソースへの依存
障害発生時の切り替え方法
負荷に応じてリソースを拡張できる構成
利用目的に対するAWSサービスの選択
目標復旧時間(RTO)と目標復旧時点(RPO)
構成・可用性の診断では、システム停止による事業への影響を整理し、必要な可用性とコストのバランスを確認します。
社内向けの一時的な検証環境と、顧客が常時利用する本番システムでは、求められる構成が異なります。システムの重要度に応じて、必要な可用性の水準を定めます。
AWS環境では、担当者の追加やシステム変更に合わせて権限を付与するうちに、現在の役割に合わないアクセス権限が残ることがあります。
診断では、IAMユーザーやロール、ネットワークの公開範囲、暗号化、ログ取得などを確認します。退職者のアカウントや未使用のアクセスキー、必要以上に付与された管理者権限、意図せず公開されているAmazon S3やデータベース、管理用ポートなどが対象です。
設定変更の履歴を追跡できるか、セキュリティイベントを検知した際の連絡先や対応手順が定まっているかも点検します。
人員や役割の変化に応じて、権限と公開設定を定期的に見直せる体制を整えます。
AWS利用料は、事業の成長や利用量の増加に加え、不要なリソースや過剰な構成によっても増加します。
例えば、停止したシステムのストレージやスナップショットが残っている、実際の負荷より大きなインスタンスを使用している、検証環境が常時稼働しているといった状態です。
コスト・リソースの診断では、請求額と利用実態を照らし合わせ、現在の構成が利用状況に合っているかを確認します。使用していないリソース、インスタンスやストレージのサイズ、稼働時間、購入オプション、部門別・システム別のコスト管理などが見直しの対象です。
Amazon EC2などのコンピューティングサービスの利用量が長期的に安定している場合は、Savings Plansなどの料金モデルも選択肢になります。利用量や構成が変動する環境では、契約期間や将来の変更計画を踏まえて判断します。
コスト最適化では、性能や可用性への影響を確認しながら、業務要件を維持できる範囲で無駄な支出を減らします。
障害が起きて初めて、監視項目の不足やバックアップから復元できない状態、対応方法を把握する担当者の不在が判明することがあります。
診断では、障害の予防に加え、異常を早期に検知し、必要な時間内に復旧できる体制が整っているかを確認します。システム構成の変更に合わせて監視対象や通知先が更新されているか、新しいリソースに監視設定が適用されているか、通知を受けた担当者が次の対応を判断できるかまで点検します。
バックアップは、対象、取得頻度、保存期間、保管先を確認します。定期的に復元テストを行い、必要なデータを目標復旧時間内に戻せるかも確かめます。
運用が特定の担当者の経験に依存している場合は、構成図や手順書を更新し、複数人が対応できる体制へ見直します。
AWS環境診断は、目的を決めずに設定を確認しても、実行可能な改善策へつながりません。最初に対象範囲を定め、見つかった課題を評価し、優先度の高いものから改善します。
まず、診断の目的を明確にします。コストの見直し、セキュリティ強化、障害対策など、目的によって確認する範囲は変わります。
そのうえで、対象となるAWSアカウント、リージョン、システム、リソースを決めます。複数のシステムを運用している場合は、事業への影響が大きい環境から段階的に進める方法もあります。
診断前には、次の情報を整理します。
AWSアカウントと組織構成
システム構成図
利用中のAWSサービス
AWS利用料とその内訳
監視、バックアップ、障害対応の状況
アクセス権限と運用担当者
システムに求める可用性と復旧時間
現在認識しているコスト、セキュリティ、運用上の課題
資料が整っていない場合は、現状の可視化から診断を始めます。構成図や運用手順が更新されていないこと自体が、改善項目として見つかる場合もあります。
診断に必要な期間は、対象となるアカウント数やシステム数、確認範囲、資料の整備状況によって変わります。外部へ依頼する際は、調査期間に加えて、事前ヒアリング、分析、報告会までのスケジュールを確認しておくと、社内調整を進めやすくなります。
診断で見つかった課題は、影響度と緊急度を基準に対応順を決めます。
情報漏洩や不正アクセスにつながる設定、障害時に事業へ大きな影響を与える構成、対応期限が定められた項目は、優先度を高く設定します。改善に必要な工数や、ほかの施策との依存関係も考慮します。
例えば、意図しない外部公開や過剰な管理者権限は早期に対応します。利用率の低いインスタンスの見直しや運用手順の更新は、業務への影響を確認しながら段階的に進めます。
診断結果には、改善計画に必要な次の情報を整理します。
課題が生じている理由
事業やシステムへの影響
推奨する対応
対応の優先度
必要な工数と費用
設定変更時の影響
技術的な深刻度に加え、事業への影響と実行可能性まで整理することで、改善に着手しやすくなります。
優先順位が決まったら、設定や構成の見直しに進みます。
不要なリソースの整理、インスタンスの適正化、IAMポリシーの変更、ネットワークの公開範囲の見直し、バックアップ構成の再設計など、課題に応じて対応内容を決めます。
本番環境へ変更を加える前に、影響範囲を確認し、必要に応じて検証環境でテストします。あわせて、変更手順と切り戻し方法を用意しておくと、想定外の影響が出た際にも対応しやすくなります。
同じ問題の再発を防ぐには、設定だけでなく運用ルールも見直します。権限を付与・削除する手順、リソース作成時の確認項目、障害発生時の連絡経路などを整備します。
改善後は、変更内容が意図どおりに反映されているかを確認します。次回の点検時期と担当者まで決めることで、診断結果を継続的な改善へつなげられます。
AWSが提供する各種サービスやチェック機能を利用すれば、自社で確認できる項目もあります。
一方、複数のアカウントやシステムを横断して評価する場合や、診断後の変更に専門的な判断が必要な場合は、外部の支援会社を活用する方法があります。
次のような状況では、外部の専門会社への依頼を検討します。
AWS環境全体を把握している担当者がいない
複数のAWSアカウントやシステムを運用している
セキュリティ、コスト、可用性、運用を横断して評価したい
現在の構成が事業要件に合っているか判断しにくい
本番環境への影響を抑えながら改善したい
監査や社内基準への対応として第三者評価が必要である
診断結果を改善計画まで落とし込みたい
自社でAWSを日常的に管理している場合、既存の設計を前提に判断し、別の構成による改善余地を見落とすことがあります。外部の専門家が加わることで、社内では気付きにくい課題や改善案を整理できます。
一方、診断対象が限定され、確認項目と対応方法が明確であれば、自社で進めることも可能です。環境の規模、社内の知識、担当者が確保できる時間、変更作業の難易度を踏まえて判断します。
外部診断の費用は、アカウント数、対象システム、診断項目、報告内容、改善支援の範囲によって変わります。見積もりを比較する際は、金額だけでなく、調査範囲、成果物、診断後の支援内容まで確認します。
支援会社を選ぶ際は、診断結果を具体的な改善計画へ落とし込み、実行まで支援できるかを確認します。
判断材料となるのは、次の点です。
AWS環境全体を横断して評価できるか
診断基準と確認方法が明確か
課題の原因と事業への影響を説明できるか
対応の優先順位を提示できるか
設定変更や構成変更まで支援できるか
本番環境への影響や切り替え手順を考慮できるか
改善後の監視や運用まで相談できるか
一般的な推奨構成を当てはめるだけでは、コストや運用負担が増える可能性があります。事業要件、社内体制、予算を踏まえて、必要な対策を選べる会社が適しています。
サーバーワークスとIIJグループは、AWS環境の診断から改善、運用まで支援します。
サーバーワークスは、AWS Well-Architected Frameworkを踏まえて課題の優先順位を整理し、構成や権限の見直し、コスト最適化、監視・バックアップの改善を担います。IIJグループは、ネットワークや海外拠点を含むIT環境を踏まえ、導入後の運用を支援します。
両社が連携することで、AWS環境とネットワーク、運用体制を一体として見直せます。 AWS環境の課題を整理したい場合や、診断後の改善まで進めたい場合はご相談ください。