タイのB2B商習慣はLINEが主戦場?シャドウIT化を防ぐガバナンスの最適解
IIJタイランド、遠藤です。
LINEが商談スピードを決めるタイのB2B現場
タイでビジネスを展開する際、日本から来たばかりの人が最初に直面する最大の文化的なギャップは、商談のスピード感とその「場」の違いにあります。日本では、ビジネスの正式なエビデンスとしてメールが重用され、CCには上司を入れ、慎重に言葉を選んで送信するのがマナーです。
しかし、タイの現場では全く異なる力学が働いています。タイ人スタッフ同士、あるいはタイ人の顧客とサプライヤーの間では、名刺交換をした数分後にはLINEの友達追加が完了し、その日の夜には「今日話した件の資料、PDFで送れる?」とカジュアルにメッセージが飛んできます。
タイにおけるLINEの普及率は凄まじく、人口の約8割にあたる5,000万人以上が日常的に利用しています。これは日本を上回る浸透率であり、タイの人々にとってLINEは単なるプライベートの連絡手段ではなく、社会を動かす「標準インフラ」です。
驚くべきは、これが社内の同僚間だけでなく、B2Bの顧客対応、さらには役所や公共サービスとのやり取りにまで浸透している点です。役員クラスであっても、スタンプ一つで「了解」が返ってくる。この「物理的な距離と役職の壁」をLINEが溶かしてしまう圧倒的なスピード感は、一度体験すると、数日かけて往復するメールのやり取りが非常にまどろっこしく感じられるほどです。
禁止ではなく、安全に使わせるガバナンス設計が必要
しかし、拠点のIT管理を預かる立場からすれば、これは極めてリスクの高い「シャドウIT」の状態に他なりません。タイ人同士が当たり前のように個人のLINEアカウントで、社外秘の見積書や商談の経緯、さらには機密性の高い設計図などをやり取りしている現実があります。
日本的な感覚で「LINE禁止、チャットツールは会社支給のものに限定」と叫ぶのは簡単です。しかし、そんなことをすればタイの現場は即座に失速し、競合他社に置いていかれるでしょう。タイのビジネス現場では、レスポンスの速さこそが最大の信頼指標であり、メールに縛り付けることは、文字通りビジネスの機会損失に直結するからです。現地のスタッフからすれば、「タイで誰もが使っている最強のツールをなぜ禁止するのか」という不満に直結します。
大切なのは、この「爆速コミュニケーション」というタイ独自の文化を否定するのではなく、いかにITで安全なレールを敷くかです。例えば、日常的なやり取りはLINEのスピード感を活かしつつ、データの保管や共有は必ず社内で承認されたセキュアなクラウドストレージのリンクURLで行う、といった運用です。
LINEのトーク画面に直接ファイルを貼り付けるのではなく、クラウド上のデータを「参照」させる形にすることで、万が一の退職時や紛失時にもアクセス権をコントロールできます。
現地の「当たり前」を無理に日本のモノサシで裁くのではなく、その文化の力を借りてビジネスを最大化させる。5,000万人以上が日常的に使いこなすインフラをいかに味方につけるか。そんな柔軟なITガバナンスの設計こそが、タイ拠点を成功に導く鍵となります。
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