- AWS Direct Connect
タイ拠点で基幹システムを運用したり、大量のデータをAWSへ転送したりする場合、インターネットVPNでは遅延の変動や帯域不足によって、必要な通信品質を確保できないことがあります。こうした用途では、企業ネットワークとアマゾンウェブサービス(AWS)を専用接続するAWS Direct Connectが有効です。
タイでは、バンコクにAWS Direct Connectの接続ロケーションがあります。導入時は、オフィスや工場から接続ロケーションまでの国内回線、AWS側のネットワーク構成、障害時の代替経路を一体で設計します。
この記事では、タイで利用できる接続ロケーション、タイ拠点からAWSへの接続構成、インターネットVPNとの違い、費用、導入の進め方を解説します。
企業のオフィスや工場から接続ロケーションまでの国内回線は、AWS Direct Connectのサービス範囲に含まれません。
2026年7月時点で、タイには次の2つのAWS Direct Connectロケーションがあります。
TCC Data Center, Bangkok
Telehouse Bangkok
TCC Data Centerは、2023年に開設されたタイ初のAWS Direct Connectロケーションです。2025年1月には、AWSアジアパシフィック(タイ)リージョンの開設にあわせて、Telehouse Bangkokが追加されました。
利用できる専用接続のポート速度はロケーションによって異なるため、必要な帯域も選定時の確認項目となります。
AWS Direct Connectロケーションに関連付けられたAWSリージョンは、接続先を限定するものではありません。
TCC Data CenterはAWSアジアパシフィック(シンガポール)リージョン、Telehouse BangkokはAWSアジアパシフィック(タイ)リージョンに関連付けられていますが、中国を除く他のパブリックAWSリージョンにあるAmazon VPCにも接続できます。
TCC Data CenterからAWSアジアパシフィック(タイ)リージョンのAmazon VPCへ接続する場合は、AWS Direct Connectゲートウェイとプライベート仮想インターフェイスを使用します。複数のAmazon VPCやAWSアカウントを集約する場合は、AWS Transit Gatewayを組み合わせます。
タイ拠点からAWSへの経路は、拠点からバンコクのAWS Direct Connectロケーションまでの国内回線と、そこからAmazon VPCまでのAWS側の接続に分かれます。
接続ロケーション内に自社のネットワーク機器を設置しない場合は、AWS Direct Connectパートナーが提供するホスト型接続やアクセス回線を利用します。接続する拠点数、Amazon VPCの数、必要な帯域に応じて構成を選びます。
バンコクのオフィスからは、通信事業者の回線を使って市内のAWS Direct Connectロケーションへ接続します。その先は、プライベート仮想インターフェイスを通じてAmazon VPCへ接続します。
接続先が1つのAmazon VPCであれば、Amazon VPCに仮想プライベートゲートウェイをアタッチする構成が基本です。複数のAmazon VPCやAWSアカウントを集約する場合は、AWS Direct ConnectゲートウェイとAWS Transit Gatewayを組み合わせます。
バンコク以外の工場や地方拠点では、拠点からバンコクのAWS Direct Connectロケーションまでを結ぶ国内回線が必要です。この区間は、タイ国内の通信事業者やAWS Direct Connectパートナーを通じて手配します。
拠点数が少なければ、各拠点から接続ロケーションまで個別に回線を引きます。複数の工場やオフィスがある場合は、各拠点の通信を企業WANに集約し、バンコクのネットワーク拠点からAWS Direct Connectへ接続できます。
タイ現地法人がAWSアジアパシフィック(タイ)リージョン、日本本社が東京または大阪リージョン、他の東南アジア拠点がシンガポールリージョンを利用するケースもあります。
AWS Direct Connectゲートウェイを使用すると、バンコクのAWS Direct Connect接続から、異なるAWSリージョンにあるAmazon VPCへ接続できます。複数のAmazon VPCやAWSアカウントを集約する場合は、AWS Transit Gatewayを組み合わせます。
AWS Direct Connectゲートウェイ自体には、接続したAmazon VPC間の通信を中継する機能はありません。タイ、東京、シンガポールのAmazon VPC間でも通信する場合は、AWS Transit Gatewayのリージョン間ピアリングなどを別途構成します。
ここでいうインターネットVPNとは、AWS Site-to-Site VPNを使い、タイ拠点のネットワークとAmazon VPCをIPsecで接続する方法です。AWS Direct Connectとの主な違いは次のとおりです。
比較項目 | AWS Direct Connect | インターネットVPN |
通信経路 | 通信事業者の回線とAWS Direct Connectロケーションを経由する | パブリックインターネットを経由する |
通信品質 | 遅延や帯域が比較的安定している | インターネットの混雑や経路の影響を受ける |
暗号化 | 通信は標準では暗号化されない | IPsecで暗号化される |
導入期間 | 回線やクロスコネクトの手配が必要 | 対応ルーターとインターネット回線があれば比較的早く導入できる |
費用 | AWS料金に加え、現地回線や接続事業者の料金がかかる | VPN接続料金と既存のインターネット回線を中心に構成できる |
主な用途 | 基幹システム、大容量データ転送、安定した通信が必要な業務 | 小規模環境、検証環境、短期間で接続したい場合 |
冗長化 | 複数回線・複数ロケーションやVPNとの併用を検討する | 2本のVPNトンネルに加え、必要に応じて別回線や別ルーターを用意する |
タイの工場から生産データを継続的に送信する場合や、基幹システムをタイリージョンで運用する場合は、AWS Direct Connectが適しています。小規模なシステムや検証環境、短期間で接続したい場合は、インターネットVPNが適しています。
AWS Direct Connectは、パブリックインターネットを経由しませんが、通信が標準で暗号化されるわけではありません。暗号化が必要な場合は、対応する接続でMACsecを利用するか、AWS Direct Connect上にAWS Site-to-Site VPNを構成します。
基幹システムでは、AWS Direct Connectを主回線とし、障害時にインターネットVPNへ切り替える構成もあります。
導入前に確認するのは、通信経路の冗長性、関係事業者の担当範囲、日本本社とタイ現地法人の運用体制です。
AWS Direct Connectを複数用意しても、タイ拠点から接続ロケーションまでの国内回線が1系統であれば、その区間が単一障害点として残ります。国内回線を含め、拠点からAWSまでの通信経路全体で単一障害点を洗い出します。
主な冗長化の方法は次のとおりです。
同じ接続ロケーションに複数のAWS Direct Connect接続を設ける
異なる接続ロケーションへ接続する
国内回線の通信事業者や物理経路を分ける
AWS Site-to-Site VPNをバックアップ経路にする
回線を2本契約していても、同じ収容局や引き込み経路、構内配線を共有していれば、工事や設備障害で同時に停止する可能性があります。通信事業者、収容設備、終端装置、物理経路が分離されているかまで確認が必要です。
本番稼働前には、主回線を停止し、予備のAWS Direct Connect接続やAWS Site-to-Site VPNへ切り替わるかを試験します。
AWS Direct Connectの導入には、タイ国内回線、接続ロケーション内の構内接続、AWS側のネットワーク設定が関係します。複数の事業者へ依頼する場合は、構築から障害対応までの責任範囲を契約前に決めます。
主体 | 主な担当範囲 |
タイ現地法人 | 利用要件の整理、拠点設備の確認、現地での立ち会い |
現地通信事業者 | 拠点から接続ロケーションまでの回線、回線終端装置、回線障害への対応 |
データセンター・接続事業者 | 接続ロケーション内の構内配線、クロスコネクト |
AWS支援会社 | AWS Direct Connect、仮想インターフェイス、AWS Direct Connectゲートウェイ、AWS Transit Gateway、経路制御の設計・構築 |
日本本社 | 全社ネットワーク方針、セキュリティ基準、予算、設定変更の承認 |
担当範囲は、専用接続とホスト型接続のどちらを使うか、通信事業者がどこまで対応するかによって変わります。回線開通、AWS設定、接続試験に加え、導入後の監視と障害の一次切り分けまで契約書や運用設計書に記載します。
障害時には、国内回線、構内接続、BGP、AWS側の経路設定を横断した調査が必要になることがあります。問い合わせ窓口が分かれる場合は、連絡順序とエスカレーション先も事前に定めます。
導入後は、AWS Direct Connectの接続状態に加え、タイ国内回線、拠点側ルーター、仮想インターフェイス、BGPセッション、バックアップ経路を監視します。
Amazon CloudWatchでは、AWS Direct Connectの接続状態、通信量、エラー、BGPの状態などを確認できます。一方、タイ拠点のルーターや国内回線は監視対象に含まれないため、現地ネットワーク側の監視が別途必要です。
日本本社とタイ現地法人の間では、次の運用ルールを共有します。
平常時の監視担当
障害発生時の一次連絡先
現地通信事業者への問い合わせ窓口
AWS側の設定変更を承認する責任者
夜間・休日の対応範囲
冗長経路の切り替え試験を行う時期
日本本社は全社的なネットワーク方針や変更承認を担い、タイ現地法人は現地設備の確認や通信事業者との調整を担当します。
AWS Direct Connectの費用は、AWS料金、タイ国内回線、接続ロケーション内の設備、設計・構築、導入後の運用で構成されます。
主な費用は次のとおりです。
費用項目 | 内容 |
ポート時間料金 | 接続方式と帯域に応じて発生するAWS Direct Connectの利用料 |
データ転送料金 | AWSから接続ロケーションへ送信するデータ量に応じて発生する料金 |
タイ国内回線の料金 | オフィスや工場からバンコクの接続ロケーションまでの回線費用 |
接続ロケーションの料金 | クロスコネクト、構内配線、ラック、ネットワーク機器などの費用 |
設計・構築費用 | AWS側のネットワーク、BGP、冗長化、監視の設計・設定費用 |
運用費用 | 回線監視、障害対応、設定変更、通信事業者との調整にかかる費用 |
AWSの料金は、主にポート時間料金とデータ転送料金で構成されます。AWSへのデータ転送には料金がかかりません。AWSから外部へのデータ転送料金は、送信元のAWSリージョンと接続ロケーションによって異なります。
ホスト型接続では、AWS Direct Connectパートナーが提供する接続サービスやアクセス回線の料金が別途発生します。専用接続では、クロスコネクトや接続ロケーション内のネットワーク機器も費用に含まれます。複数の回線や接続ロケーションを利用する場合は、その分だけ初期費用と月額費用が増えます。
導入期間は、タイ国内回線の敷設や接続ロケーション内の工事に大きく左右されます。既存回線を利用できるホスト型接続は比較的短期間で開通できる場合があります。新たに専用回線を敷設する場合や、複数の通信事業者・接続ロケーションを使って冗長化する場合は、現地調査や工事、事業者間の調整に時間がかかります。
見積もりでは、月額料金に加えて、初期工事費、最低利用期間、解約費用、増速時の手続き、障害対応、冗長回線の費用も対象となります。費用と導入期間は、タイ拠点からAmazon VPCまでの接続全体で算出します。
AWS Direct Connectの導入では、タイ拠点からバンコクの接続ロケーションまでの回線手配と、AWS側のネットワーク構築を並行して進めます。通信事業者、AWS支援会社、タイ現地法人、日本本社の間で、工程と責任範囲を共有しておくことが前提です。
1. 接続要件を定める
接続するタイ拠点、対象システム、Amazon VPC、AWSアカウント、AWSリージョン、必要な帯域を洗い出します。許容停止時間、暗号化、バックアップ回線、日本本社や他国拠点との通信も設計条件に含めます。
複数のAmazon VPCやAWSリージョンへ接続する場合は、AWS Direct ConnectゲートウェイやAWS Transit Gatewayを含む構成が必要です。
2. 接続ロケーションと接続方式を選ぶ
タイ拠点の所在地、接続先のAWSリージョン、帯域、冗長化要件から、バンコクの接続ロケーションと通信事業者を選びます。
接続方式は、自社専用の物理ポートを利用する専用接続と、AWS Direct Connectパートナーの回線を利用するホスト型接続に分かれます。ホスト型接続はパートナーへ申し込み、提供された接続をAWSアカウント側で承諾します。
3. タイ国内回線とAWS Direct Connect接続を手配する
専用接続では、AWSが発行するLOA-CFAを使って、接続ロケーション内のクロスコネクトを手配します。ホスト型接続では、AWS Direct Connectパートナーが接続を作成します。
同時に、オフィスや工場から接続ロケーションまでの国内回線を申し込みます。地方拠点では、現地調査や引き込み工事、立ち会いが発生する場合があります。
4. AWS側のネットワークを構築する
仮想プライベートゲートウェイ、AWS Direct Connectゲートウェイ、AWS Transit Gatewayなどを構築し、仮想インターフェイスとBGPを設定します。
複数回線を利用する場合は、主回線とバックアップ回線の優先順位もルーティングへ反映します。
5. 接続試験と本番切り替えを行う
タイ拠点からAmazon VPC内のリソースへ接続し、通信経路、遅延、帯域、業務アプリケーションの動作を検証します。
冗長構成では、主回線を停止し、予備のAWS Direct Connect接続やAWS Site-to-Site VPNへ切り替わるかも試験します。基幹システムは、対象システムや拠点を分けて段階的に切り替えます。
6. 監視と障害対応を開始する
本番稼働後は、AWS Direct Connect、仮想インターフェイス、BGP、タイ国内回線の状態を監視します。障害時の一次対応者、連絡先、切り分け手順は、構築時の情報とあわせて運用資料へ引き継ぎます。
AWS側の構築とタイ国内回線を別々の事業者へ依頼すると、構築時の調整や障害発生時の切り分けが複雑になります。
サーバーワークスとIIJが提供する「IIJ Managed Cloud for AWS」では、IIJグループがタイ国内回線や現地ネットワークを、サーバーワークスがAWS側の設計・構築・運用を支援します。
主な支援内容は次のとおりです。
接続ロケーション、帯域、冗長構成を含むネットワーク設計
タイ国内回線の手配とAWS Direct Connectの構築
接続試験、監視、障害時の切り分けと事業者間の調整
AWS環境の24時間365日監視に加え、タイでは日本語・英語・タイ語によるサポートにも対応しています。タイ国内回線からAWS側の構築、導入後の運用までまとめて進めたい場合は、サーバーワークスへお問い合わせください。