財布はいらない、スマホで十分。タイの決済インフラ「PromptPay」が日本より進んでいる理由
IIJタイランド、遠藤です。
バンコクの路地裏にある、一食60~80バーツ(300~400円)ほどの小さなガパオライス屋台。そこでお会計をしようとすると、店のおばちゃんが当たり前のようにラミネートされた一枚のQRコードを差し出してきます。

スマホをかざして金額を入力し、送金ボタンを押す。すると数秒後におばちゃんのスマホから「〇〇バーツが入金されました」という通知が入り、調理の手を止めることなく「はい、受け取ったよ」という顔をします。この間、わずか数秒。小銭のやり取りも、お釣りの心配もありません。
タイでは今、高級モールから路地の屋台まで、文字通りスマホ一台で生活が完結しています。QR決済ができないというお店にはほとんど当たったことがありません。この爆速なキャッシュレス社会を支えているのが、タイ独自の決済インフラ「PromptPay(プロンプトペイ)」です。日本のPayPayなどと似ているように見えますが、その設計思想は根本から異なります。
一番の違いは、それが「民間企業のサービス」か「国が作った公共インフラ」かという点です。日本のPayPayや楽天ペイは、ユーザーがアプリにお金をチャージしてその会社のルール(経済圏)の中で使う「デジタル財布」ですが、タイのPromptPayは銀行口座同士が直接繋がっています。
そのためチャージという概念自体がなく、自分の口座から相手の口座へ、文字通りリアルタイムに資金が移動します。また、どの銀行口座/アプリを使っていようが、一つのQRコードで誰とでもやり取りができます。しかも個人間の送金なら基本手数料は無料。この「ユーザーコストゼロ」という設計が、利益の少ない屋台や個人商店がこぞって導入する最大の動機となったようです。
この仕組みを支えているのが、銀行の垣根を取り払った「共通の宛先」という考え方です。本来、銀行振込には「銀行名・支店番号・口座番号」情報が必要ですが、PromptPayではこれらを事前に「電話番号」や「国民ID番号」と紐付けて登録しておきます。すると、支払う側はQRコードをスキャンするだけで、裏側にある銀行口座を瞬時に特定できるようになります。相手がどの銀行を使っていようが、この「共通の鍵」があるおかげで、迷うことなく最短ルートで着金するのです。相手がどの銀行を使っていようが、QRコード一枚、あるいは電話番号一つあれば、確実に、しかも即座に相手の口座にお金が届きます。
この「規格の統一」こそが、ITに詳しくない層にも普及した最大の鍵だったようです。ユーザーは「相手がどのペイを使っているか、どの銀行口座を利用しているか」を気にする必要がなく、店側も複数のQRコードを並べる必要がありません。
日本が「どのポイント経済圏がお得か」を競い、規格の乱立に悩んでいる間に、タイは「誰もが、どこでも、手数料なしで即座に繋がる」という仕組みを、生活の当たり前として実装してしまいました。
屋台のおばちゃんがスマホでスマートに商売をこなす姿を見ていると、デジタル化の成功とは、技術の高度さ以上に「いかにユーザーの不安や手間を取り除き、社会のインフラとして開放するか」にかかっているのだと痛感させられます。
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