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アマゾンウェブサービス(AWS)は従量課金だから安いと聞いて導入したものの、いざ運用が始まると「なぜか毎月請求額が増えている」「どのリソースがコスト増の要因なのか分からない」と感じるケースは少なくありません。
本記事では、ブラックボックスになりがちなAWSコストの構造を整理します。単なる計算方法の解説ではなく、見積もり時に陥りやすい落とし穴や、請求額をコントロール不能にさせないための管理の勘所を、実務の流れに沿って解説します。
AWSは従量課金制のため、「使った分だけ支払う」という説明だけを見ると、コストは単純に思えます。しかし実際の請求額は、利用量そのものよりも、どのサービスをどの構成で使い、どう運用しているかによって大きく変わります。
AWSが安くも高くもなる理由は2つあります。ひとつは、インスタンス台数やストレージ容量、データ転送量といった純粋な利用量です。もうひとつは、冗長構成の取り方、リソースの配置、停止や削除の運用ルールといった設計・運用上の判断です。後者は料金表からは把握しづらく、意図せずコストを押し上げる要因になります。
そのため、AWSのコスト問題は「料金表を理解しているかどうか」では解決しません。重要なのは、どの選択がどこでコストとして現れるのかを構造として理解しているかどうかです。この構造を押さえないまま見積もりや運用を行うと、請求額が想定から外れる原因を特定できなくなります。
AWSのコストは細かい料金項目の集合ではなく、いくつかの要素に分解して捉えると全体像が見えます。重要なのは、「どの要素が増えやすいか」と「どこが見落とされやすいか」を切り分けて理解することです。
リソースを停止すれば課金も止まると思われがちですが、必ずしもそうではありません。たとえばEC2インスタンスを停止しても、アタッチされたEBSボリュームは保持されている限り課金が継続します。同様に、Elastic IPアドレスも未使用状態で確保していると課金対象になります。
この違いを理解せずに「停止=コストゼロ」と考えていると、使っていないはずの環境から請求が発生し続けることになります。AWSコストの最初の落とし穴は、リソースの状態と課金の関係が一致しない点にあります。
AWSのコストは、概ね次の4つの要素で構成されます。
計算(Compute):EC2やLambdaなどの実行リソース
保存(Storage):EBS、S3、スナップショットなどのデータ保持
転送(Data Transfer):インターネット向け、AZ間、リージョン間の通信
管理(Management):監視、ログ、バックアップ、サポートなどの運用関連コスト
見積もりでは計算リソースに意識が向きがちですが、保存・転送・管理の要素は後から積み上がりやすく、運用フェーズで効いてきます。特に管理系のコストは「必要経費」として見過ごされやすく、気づいたときには無視できない金額になっていることがあります。
4つの要素の中でも、最も把握が難しく、想定を外しやすいのがデータ転送です。インターネットへのアウトバウンド通信、アベイラビリティゾーンをまたぐ通信、リージョン間通信など、転送の経路によって課金条件が異なります。
設計段階で意識されにくい一方、トラフィック量の増加や構成変更によって急激にコストが膨らむことがあります。
AWSの請求額が想定を超える背景には、単一の原因があるわけではありません。多くの場合、「見積もり段階で想定していないコスト」と「運用開始後に増え続けるコスト」が重なって発生します。突発的な事故ではなく、構造的に起きやすい現象です。
見積もりでは、EC2やRDSなどの主要リソースに目が向きがちですが、実際に請求額を押し上げるのは周辺リソースであることが少なくありません。代表例が、NAT Gateway、スナップショット、CloudWatch Logsです。
NAT Gatewayは可用性確保のために当たり前のように配置されますが、通信量に応じて課金されるため、トラフィックが増えるほど影響が大きくなります。スナップショットは「保険」として保持され続け、世代管理をしないまま容量が増えがちです。CloudWatch Logsも、ログ出力量や保存期間を意識しないと、気づかないうちにコストが積み上がります。
単体では小さく見えても、見積もりに含めないまま運用を始めると、予算との差分として後から顕在化します。
もう一つの要因は、運用開始後の放置によるコスト増加です。使われなくなったインスタンスやリソースが停止・削除されないまま残り続けると、意図しない課金が発生します。
多いのが、一時的に立ち上げた検証環境や、役目を終えたインスタンスがそのまま残るケースです。AWSの請求額が予算を超えるのは、派手な設定ミスよりも、こうした小さな見落としや放置が積み重なった結果であることがほとんどです。
AWSの見積もりで重要なのは、ツールの操作そのものではなく、どんな前提で数字を作っているかです。前提が曖昧なままだと、見積もりは正しそうに見えても、実運用では簡単に崩れます。
Pricing Calculatorは強力なツールですが、入力する前提条件を誤ると、現実とかけ離れた数字が出ます。見積もり前に最低限整理しておくべきなのは、次の点です。
稼働時間(24時間稼働か、業務時間のみか)
台数と冗長構成(本番・待機系を含めているか)
インスタンス性能(余裕を見すぎていないか)
データ量と増加ペース(初期値だけで止まっていないか)
リージョン(東京か、他リージョンか)
多い失敗が、「最小構成」で見積もってしまうことです。本番では可用性や運用負荷を考慮して構成が増えるため、この段階で差分が生まれます。
見積もりでは、メインとなるリソース以外のコストも必ず含める必要があります。具体的には、以下のような周辺コストです。
AWSサポートプランの費用
バックアップやスナップショットの保存コスト
監視・ログ取得に伴う運用コスト
セキュリティ対策や追加サービスの利用料
これらは「あとから必要になる」ことが多く、初期見積もりから漏れやすい項目です。しかし、本番運用では避けられないため、最初から前提に含めておくべきコストでもあります。
AWSのコスト管理で重要なのは、請求額を下げることではなく、想定から外れない状態を作ることです。発生した後に原因を探すのではなく、増え始めた兆しを素早く捉え、どこで何が起きているかを即座に把握できる仕組みが必要です。
AWS Budgetsは、コストを制限するための機能ではなく、異常を早期に検知するための仕組みとして使うのが基本です。月次予算やサービス別の上限を設定しておくことで、想定より早いペースでコストが増えている場合に通知を受け取れます。
重要なのは、予算額を厳密に当てにいかないことです。多少余裕を持たせたラインを設定し、「いつもと違う動き」を検知できる状態を作ることが目的です。
Cost Explorerは、請求額が増えた理由を切り分けるためのツールです。サービス別、アカウント別、日別などの切り口でコストの変化を確認でき、どこで増加が起きているかを短時間で把握できます。
ポイントは、前月比や直近数日間の推移を見ることです。総額だけを追うのではなく、「いつ」「どのサービスで」増え始めたかを把握できると、原因の当たりが付きます。
BudgetsやCost Explorerを有効に機能させるには、コスト配分タグの設計が欠かせません。タグを使うことで、コストをプロジェクト別、環境別、担当部署別に分解できます。
タグがない状態では、「増えている」ことは分かっても、「誰の判断で、何の用途として使われているか」が見えません。最低限、環境(本番・検証)、用途、プロジェクトといった軸でタグを付けておくことで、コスト管理は初めて実務に耐えるものになります。
AWSのコスト最適化で失敗しやすいのは、「割引」や「予約」を先に考えてしまうことです。実務では、順番を誤ると最適化どころか、無駄を固定化してしまいます。重要なのは、いま何にお金を払っているのかを整理してから、将来の支払いを決めることです。
最初にやることは、環境の整理です。使われていないインスタンス、役目を終えた検証環境、放置されたロードバランサーやIPアドレスなど、不要なリソースを削除・停止します。
この段階は、設定変更や設計見直しを伴わないため、最もリスクが低く、効果が出やすいのが特徴です。にもかかわらず後回しにされがちなのは、「誰が消していいのか分からない」状態になっているケースが多いためです。
次がリソースの適正化です。過剰なスペックのインスタンスを縮小したり、常時稼働が不要な処理をオンデマンド型のサービスに置き換えたりすることで、構造的にコストを下げます。
この段階では、CPUやメモリの使用率など、実際の利用状況をもとに判断することが重要です。設計を見直す余地がある状態で、先に割引オプションを適用してしまうと、改善の自由度が下がります。
最後が、Savings Plansやリザーブドインスタンスといった購入予約です。これらは、利用量が安定している前提で初めて効果を発揮します。
掃除と適正化を終えた後であれば、「この構成は当面変わらない」という判断がしやすくなります。その状態で予約を行うことで、無駄を固定化せずに割引の恩恵を受けられます。
コスト最適化は、テクニックの話ではなく順番の話です。この黄金順を守ることで、無理のない形で継続的な最適化が可能になります。
AWSの利用料金は米ドル建てで計算され、実際の支払いはクレジットカード会社や請求代行事業者の換算レートに基づいて日本円で行われます。そのため、為替レートの影響を受け、利用量が変わっていなくても請求額が前月より増減することがあります。コスト管理を行う際は、利用量の変化と為替要因を分けて考える必要があります。
AWSには無料利用枠がありますが、対象サービスや期間、上限が決まっています。検証用途では有効ですが、本番運用を前提にすると、無料枠だけで賄えるケースはほとんどありません。
AWSは使い方によっては、オンプレミスよりコストが高くなることがあります。代表的なのは、常時高負荷で稼働するシステムをそのまま移行した場合や、データ転送量が多い構成を取った場合です。AWSの特性を活かせない構成では、従量課金のメリットが出にくくなります。
規模に関わらず、最初から設定しておくのは、コストの可視化と通知の仕組みです。具体的には、AWS Budgetsによる予算アラートと、最低限のコスト配分タグの設定です。これらを後回しにすると、問題が起きたときに原因を追えなくなります。
AWSのコストは、単に「使った分」だけで決まるものではありません。どのサービスをどの構成で使い、どのように運用しているかという設計と管理の積み重ねによって、大きく差が出ます。そのため、料金表や割引制度だけを追っても、コストの問題は解決しません。
重要なのは、コストが発生する構造を理解し、見積もり段階で前提を整理し、運用開始後は予兆を捉えられる状態を維持することです。不要なリソースを整理し、構成を適正化したうえで、初めて割引オプションが意味を持ちます。
AWSのコスト管理は、安くするためのテクニックではなく、予測可能な状態を作るための設計と運用の話です。この視点を持てるかどうかが、請求額に振り回されるか、コントロールできるかの分かれ目になります。