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アマゾンウェブサービス(AWS)で可用性対策を検討する際、マルチAZ構成は有力な選択肢になります。複数のアベイラビリティゾーンにリソースを分散することで、単一障害点を避けられるためです。
ただし、マルチAZにしただけでは、想定どおりに復旧できないケースも少なくありません。設計や運用の前提を誤ると、構成上は冗長でも、実際にはサービスが停止する状態になりやすくなります。
本記事では、AWSにおけるマルチAZの位置づけを整理したうえで、
マルチAZで対応できる障害と、対応できない障害
実務で起きやすい設計・運用上の落とし穴
DR対策との関係性と、構成判断の分岐点
を順に解説します。マルチAZを前提に設計を進める前に、まず押さえておきたい論点から確認していきます。
マルチAZ構成を検討する際は、まず「何を守れるのか」「何は守れないのか」を切り分ける必要があります。マルチAZは可用性を高める基本手段ですが、万能なDR対策ではありません。守備範囲を誤ると、冗長化しているつもりでも停止リスクが残ります。
マルチAZが想定するのは、特定のアベイラビリティゾーンで障害が発生した場合でも、サービス全体を継続できる状態です。
たとえば、アプリケーションサーバやデータベースを複数AZに分散し、ロードバランサで正常なAZへ切り替えられるようにしておけば、単一拠点に依存するリスクを下げられます。
考え方の中心にあるのは「1つのAZが使えなくなっても、残りで処理を継続できる構成にする」という可用性設計です。
一方で、マルチAZはリージョン内の分散であるため、リージョン全体の障害や大規模災害までを自動的にカバーするものではありません。また、構成がマルチAZであっても、運用設計が追いついていなければ復旧できないケースがあります。
切替手順が未整備だったり、依存するサービスが単一AZに残っていたりすると、障害時に想定どおり動きません。マルチAZはあくまで前提条件であり、設計と運用を含めて初めて効果を発揮します。
マルチAZ構成でも実務で多いのが、片方のAZが停止した瞬間に残りのAZが過負荷になり、連鎖的にサービスが落ちるパターンです。背景にあるのは「障害が起きてからスケールさせればよい」という前提で設計してしまうことです。
マルチAZでは、片方のAZで障害が発生しても、残ったリソースだけで一定の負荷を処理できる状態を平常時から維持しておく必要があります。これが静的安定性の考え方です。
可用性を高めるには、配置を分散するだけでなく、障害時に耐えられるキャパシティと切り替え設計をセットで考えることが欠かせません。
マルチAZを正しく理解するには、まずAWSのインフラがどのような単位で分かれているかを押さえる必要があります。「リージョン」と「アベイラビリティゾーン(AZ)」の違いを曖昧なままにすると、可用性設計の前提がずれてしまいます。
AWSのリージョンは地理的な拠点を表し、その中に複数のアベイラビリティゾーンが存在します。AZは単なる論理的な区分ではなく、電源・ネットワーク・設備を分離した独立したデータセンター群として設計されています。
そのため、同じリージョン内でも、1つのAZで障害が発生した場合に他のAZへ影響を波及させにくい構造になっています。マルチAZ構成は、この「AZ単位で障害を分離できる」という前提に立った可用性設計です。
AZは互いに物理的に離れており、数km〜数十km程度の距離を持つとされています。一方で同一リージョン内にあるため、AZ間は専用ネットワークで低レイテンシに接続されます。
この距離感は重要で、十分に分離されているから障害耐性が得られつつ、近距離であるため同期レプリケーションや高速なフェイルオーバーが現実的になります。
マルチリージョンが災害レベルの分散を担うのに対し、マルチAZは「低遅延を保ったまま障害分離する設計」と位置づけられます。
シングルAZ構成は、システムを1つのAZに集約する設計です。構成が単純でコストも抑えやすい反面、そのAZが停止するとサービス全体が影響を受けます。
一方、マルチAZ構成は複数AZにリソースを分散し、片系障害でもサービスを継続できる状態を目指します。ただし、分散するほど設計は複雑になり、ネットワークや運用まで含めた整合が必要になります。
可用性を高めるための第一歩は、「AZをまたぐこと」ではなく、リージョンとAZの役割を理解したうえで適切に使い分けることです。
マルチAZ構成はAWSで可用性を高める基本手段ですが、導入すれば自動的に安全になるわけではありません。効果と同時に、コストや設計負荷も含めて判断する必要があります。
最大のメリットは、単一の障害点を避けられることです。システムを複数のAZに分散しておけば、特定のAZで障害が発生しても、サービス全体を停止させずに継続できる可能性が高まります。
インフラを冗長化しておくことで、障害時の復旧対応を人手に依存しにくくなります。ロードバランサによる切り替えや、データベースの自動フェイルオーバーなどを組み合わせれば、停止時間を最小限に抑えられます。
一方で、コストと複雑性の増加が伴います。サーバやデータベースを複数AZに配置する以上、必要なリソースは基本的に二重化されます。加えて、AZ間の通信やデータ転送が発生することで、運用コストも増えやすくなります。
構成が分散するほど設計や運用の難易度も上がります。依存関係が片系に残っていたり、切替手順や監視が不十分だったりすると、マルチAZでも想定どおりに復旧できません。
マルチAZは可用性を高める有効な手段ですが、導入すれば自動的に安全になるわけではなく、設計・運用を含めて成立させる必要があります。
マルチAZを実務で活かすには、概念として理解するだけでなく、典型的な構成パターンを前提に設計を考えます。AWSでは多くのサービスがマルチAZを前提に作られていますが、どこを分散し、どこが単一障害点になりやすいかは構成によって変わります。ここでは代表的なパターンを整理します。
Webアプリケーションで最も一般的なのは、ロードバランサ配下に複数AZへアプリケーションサーバを分散配置する構成です。
たとえばALBを入口にし、各AZに配置したEC2やコンテナへトラフィックを振り分けることで、片方のAZで障害が起きても正常なAZ側で処理を継続できます。
このとき重要なのは、サーバ台数を分散するだけでなく、片系喪失時でも必要な処理能力を維持できるキャパシティ設計にしておくことです。マルチAZは配置の話であり、耐えられる状態を作る設計がセットになります。
マルチAZ設計でつまずきやすいのが、アプリケーションの状態をどこに持たせるかです。
セッション情報や一時データをサーバローカルに保持していると、AZ障害やスケールアウト時にユーザーの状態が引き継げず、サービス継続が難しくなります。
そのためマルチAZでは、アプリケーションは可能な限りステートレスに設計し、状態を外部に切り出すのが基本です。必要に応じてElastiCacheやDynamoDBなどを使い、AZをまたいでも整合が取れる形でセッションを管理することが求められます。
データベース層では「マルチAZ構成」と「RDSのMulti-AZ」を混同しないことが重要です。
RDSのMulti-AZは、スタンバイを別AZに配置し、障害時に自動フェイルオーバーする仕組みを提供します。一方で、アプリケーション側の接続設計や復旧後の運用まで含めて整合させなければ、想定どおりに切り替わらないケースもあります。
また、可用性だけでなく読み取り性能やスケール目的でリードレプリカを併用する場合もあり、目的で選択肢が変わります。マルチAZは「DBを二重化すること」ではなく、障害時に業務を止めないデータ層の設計として捉える必要があります。
構成だけ整えても障害時に止まるケースはあります。多くの場合「AZをまたいで配置したつもりでも、実際には単一障害点が残っている」のが原因です。
ネットワークはマルチAZ構成で見落とされやすい単一障害点です。たとえばNAT Gatewayを1つのAZに集約していると、そのAZが停止した瞬間に他AZから外部アクセスができなくなる可能性があります。
Interface型のVPCエンドポイントも注意が必要です。特定のAZにしかエンドポイントが存在しない場合、そのAZに障害が起きると、他AZからAWSサービスへの通信が遮断されるリスクがあります。
マルチAZ設計では、アプリケーションだけでなくネットワーク経路もAZをまたいで冗長化されているかを確認する必要があります。
マルチAZに分散していても、重要な処理や依存サービスが片側AZに偏っていると、障害時に切り替えが成立しません。
代表例は、管理系バッチが特定AZにしか存在しない、ストレージや認証基盤が片系に残っている、といったケースです。
構成図上は冗長に見えても、実際の依存関係がAZをまたいで完結していなければ、障害時にはボトルネックになります。設計段階で「どこが止まると業務が止まるか」を分解して確認することが重要です。
可用性は構成だけでは決まらず、運用設計とセットで成立します。
たとえば自動フェイルオーバーが前提でも、切替後の動作確認や復旧後の戻し手順が整備されていなければ、結果的に長時間停止することがあります。
監視が片側AZの障害を正しく検知できない場合、異常が見えているのに対応できない状態になりやすくなります。マルチAZを本番で機能させるには、障害時の動きを平常時に検証し、切替・復旧を運用として回せる状態にしておく必要があります。
マルチAZ構成は、コストが増えやすい設計でもあります。単純に「冗長化=安全」と捉えるのではなく、どのコストが増えるのかを把握したうえで、業務要件に見合ったバランスを取ることが重要です。
マルチAZでは、リソースを複数AZに分散するため、基本的にインフラが二重化されます。アプリケーションサーバの台数が増えるだけでなく、データベースやロードバランサなども冗長構成を前提に設計されます。
加えて、監視対象が増えることで運用コストも上がりやすくなります。構成が複雑になるほど、障害時の対応やテスト工数も含めた総コストは増加します。マルチAZのコストは「料金表に出る金額」だけでなく、運用負荷も含めて捉える必要があります。
マルチAZではAZ間で通信が発生するため、ネットワーク転送コストが増えるケースがあります。
たとえばアプリケーションとデータベースが別AZに跨って通信している場合、平常時からAZ間のトラフィックが発生します。同期レプリケーションやログ転送なども含め、データ転送量が多いシステムほど影響は大きくなります。
可用性を優先するあまり、平常時からAZ間通信が常態化する構成になっていないかは、設計段階で確認しておく必要があります。
マルチAZは「必ず採用すべき構成」というより、求める可用性に応じて選択する設計判断です。業務停止が許容されないシステムでは標準的な前提になりますが、停止影響が限定的な環境まで一律に適用すると過剰投資になりかねません。
重要なのは、障害時にどこまで継続すべきかをRTO・RPOや業務影響から整理し、その範囲に見合う冗長化を行うことです。可用性とコストの両方を制御できる設計が、現実的なマルチAZ活用につながります。
マルチAZはAWSの可用性設計における基本手段ですが、DR対策をすべて代替できるわけではありません。可用性と災害対策は似た文脈で語られますが、想定する障害の規模と復旧要件が異なります。ここではマルチAZで足りる場合と、追加で検討すべき構成を整理します。
マルチAZが有効なのは、リージョン内で発生するAZ障害や設備障害に備えたいケースです。
たとえば業務システムやWebサービスで、単一AZ停止によるサービス断を避けたい場合は、マルチAZ構成が標準的な選択肢になります。
自動フェイルオーバーや負荷分散を組み合わせれば、停止時間を最小限に抑えられるため、「リージョンは生きている」という前提の障害対策としては十分な効果を発揮します。
一方で、リージョン全体の障害や大規模災害まで想定する場合、マルチAZだけでは不十分です。
リージョン単位でサービスが利用できなくなる事態に備えるには、別リージョンへの待機系やバックアップ、切替設計を含むマルチリージョン構成が必要になります。
また、事業継続上「数時間以上止められない」「地域分散が必須」といった要件がある場合は、マルチAZではなくDR設計としての検討が求められます。
マルチAZかマルチリージョンかを判断する際は、技術論ではなく復旧要件から逆算することが重要です。RTO(復旧までに許容される停止時間)とRPO(許容されるデータ損失量)を整理すると、必要な冗長化のレベルが見えてきます。
AZ障害への即時復旧が目的ならマルチAZが中心になりますが、リージョン障害まで視野に入れるならバックアップ戦略やクロスリージョン復旧も含めて設計する必要があります。
マルチAZ構成は、設計図上で冗長に見えるだけでは成立しません。障害時に本当に継続できるかは、設計の整合性と運用の準備に左右されます。ここでは構築後に差が出やすい実務ポイントを整理します。
マルチAZ設計では、単にリソースを分散したかではなく、障害時に機能する構造になっているかをレビューする必要があります。重要なのは、単一障害点が残っていないか、依存関係が特定AZに固定されていないかという観点です。
また、片系喪失時に耐えられるキャパシティを維持できているか、静的安定性の考え方が設計に反映されているかも確認が必要です。構成要素ごとの冗長化ではなく、システム全体として継続できるかを評価することが重要です。
可用性は障害が起きた瞬間にしか検証できません。マルチAZを採用していても、切替が想定どおり動くかを事前に確認していなければ、本番では機能しない可能性があります。
フェイルオーバー後にアプリケーションが正常に動くか、切り替え後の性能に耐えられるか、復旧後に戻す手順はどうするかといった点は、テストと訓練を通じて初めて明確になります。構成を作るだけでなく、障害時の動きを平常時に経験しておくことが実務上の差になります。
マルチAZ環境では、運用も片系前提では回りません。監視はAZ単位で異常を検知できる設計が必要ですし、切替後の確認項目やエスカレーション手順も整理しておく必要があります。
また、定期メンテナンスや更新作業も「止めない前提」で設計されるため、変更管理や作業計画の精度が求められます。マルチAZを本番で成立させるには、構成・監視・復旧手順をセットで整備し、運用として回せる状態にしておくことが不可欠です。
止まらないとは限りません。マルチAZは単一AZ障害への耐性を高める手段ですが、設計や運用が不十分であれば停止は起こり得ます。
片系喪失時のキャパシティが不足している場合や、ネットワークや依存サービスが単一AZに残っている場合は、マルチAZでもサービス継続ができません。構成だけでなく、障害時に成立する設計になっているかが重要です。
DR対策として十分かどうかは、想定する障害の範囲によります。マルチAZがカバーするのはリージョン内のAZ障害が中心であり、リージョン全体の障害や大規模災害までを前提とした設計ではありません。
事業継続要件が厳しい場合は、マルチリージョンやバックアップを含むDR設計を別途検討する必要があります。
増加幅は構成によって異なりますが、基本的にはリソースの二重化とAZ間通信によってコストは上がります。アプリケーションサーバやデータベースの冗長化に加え、転送量が多いシステムではネットワークコストも影響します。
可用性要件に対して過剰な冗長化になっていないかを確認し、必要な範囲に絞って設計することが重要です。
あります。開発環境や検証環境、停止影響が限定的な小規模システムでは、シングルAZが合理的な場合もあります。ただし、本番環境で業務停止が許容されない場合は、シングルAZは単一障害点を抱える構成になります。
重要なのは「マルチAZが正解かどうか」ではなく、業務要件に対して必要な可用性レベルを選択することです。
AWSのマルチAZ構成は、リージョン内で障害を分離し、単一AZ障害によるサービス停止リスクを下げるための基本設計です。Webアプリケーションや業務システムでは標準的な可用性対策になります。
一方で、マルチAZにしただけで安全になるわけではありません。静的安定性を踏まえたキャパシティ設計、ネットワークを含む単一障害点の排除、切替手順や訓練まで含めた運用設計が揃って初めて効果を発揮します。
また、リージョン障害まで想定する場合はマルチAZでは不十分であり、RTO・RPOに基づいてDR設計やマルチリージョン構成を検討する必要があります。可用性要件に応じて、適切な冗長化レベルを判断することが重要です。