AWS移行アセスメントとは?現状分析から計画策定までの進め方と活用ツール

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アマゾンウェブサービス(AWS)への移行を成功させるうえで、最初に取り組むべき重要なプロセスが「アセスメント」です。現行システムの構成・依存関係・コスト・リスクを正確に把握しないまま移行を進めると、設計の手戻りや費用の肥大化、ダウンタイムの長期化などの問題が発生しやすくなります。

AWSでは、Migration Readiness Assessment(MRA)、Migration Evaluator、Application Discovery Serviceなど、アセスメントを支援する専用ツール群が提供されています。これらを活用することで、移行の妥当性判断から、最適な移行方式の選定、投資対効果を踏まえた計画策定までを精度高く進められます。

本記事では、AWS移行アセスメントの目的、具体的な進め方、AWS公式ツールの使い分け、計画策定のポイントを体系的に解説します。

AWS移行アセスメントとは?

AWS移行アセスメントは、AWSへの移行を安全に進めるための初期プロセスです。現行システムの状態を正確に把握し、移行方式、費用、リスクを整理することで、計画段階の不確実性を減らせます。アセスメントの目的と、その実施によって得られる効果を解説します。

アセスメントの目的

AWS移行アセスメントは、移行計画を作る前に「現状を正しく理解し、移行方針を判断するための土台」を整える工程です。

最初に、サーバやアプリケーションがAWSへ移せるかを技術面から確認します。続いて、AWSへ移した場合のコストを試算し、現行環境との違いを把握します。あわせて、ダウンタイムや依存関係などのリスクを抽出し、移行時の影響を見極めます。

そのうえで、Re-host、Re-platform、Re-architectのどれが最適かを判断する材料を揃え、計画の方向性を固めます。必要な情報を整理することで、実行段階での手戻りを防ぎ、移行作業全体をスムーズに進められます。

アセスメントを実施するメリット

アセスメントを事前に行うことで、感覚ではなくデータに基づいた移行計画を立てられます。現行環境の整理結果をステークホルダー間で共有し、前提のずれや判断の食い違いを防げます。

また、AWS移行後の運用コストを見通しやすくなるため、予算計画の精度が上がります。PoCを挟むべきか、段階的に移行すべきかといった判断も明確になり、実行フェーズでのリスクを抑えられます。

アセスメントの進め方

AWS移行アセスメントは、現行環境の整理から方式選定、コスト算出、リスク評価、ロードマップ策定までを段階的に進めることで、計画の精度と実行性を高めるプロセスです。

一般的なアセスメントの流れを6つのステップに分けて、実務で押さえるべきポイントを整理します。

1. 現行システムの棚卸し

サーバ、アプリケーション、データベース、ネットワーク構成、依存関係を整理します。あわせて、レガシーOSや専用機器など、移行時に制約となりやすい要素を洗い出します。

2. 技術・運用上の現状評価

次に、可用性、セキュリティ、運用体制といった技術・運用面の現状を可視化します。SLAや監視、バックアップなど、求められる要件とのギャップも確認します。

3. 移行方式の検討

現行環境の特性を踏まえ、Re-host(リフト&シフト)、Re-platform、Re-architect(モダナイズ)のいずれが適切かを検討します。方式ごとのメリット・デメリットを比較し、技術要件と業務要件の両面から判断します。

4. コスト試算とTCO比較

オンプレミス環境、他クラウド、AWSのコストを比較し、TCO(総保有コスト)を試算します。Savings PlansやAmazon EC2 Reserved Instances、AWS Gravitonの活用可能性も含めて、最適な料金モデルを評価します。

5. リスク分析と移行難易度評価

ネットワーク制約、ダウンタイムの許容範囲、業務停止リスクなどを整理し、移行の難易度を評価します。Windowsや商用データベースなど、既存ライセンスの移行可否もあわせて確認します。

6. 移行計画とロードマップ策定

最後に、段階移行と一括移行のどちらを採用するかを決定し、PoCの実施範囲を定義します。そのうえで、棚卸し→設計→移行→切替といったマイルストーンを設定し、実行可能なロードマップとして整理します。

AWS公式ツールを使ったアセスメント

AWSには、移行前の分析を正確かつ効率的に進めるための公式ツールが用意されており、現行環境の可視化からコスト評価、設計面の課題抽出までを一貫して進められます。

Migration Readiness Assessment(MRA)

Migration Readiness Assessment(MRA)は、組織全体がAWS移行にどの程度備えているかを確認するための評価プログラムです。People、Operations、Securityなど6つの観点から準備状況をチェックし、移行成熟度を可視化します。移行に向けて不足している領域を把握し、どこから改善すべきかを判断する際に役立ちます。

Migration Evaluator(旧TSO Logic)

Migration Evaluatorは、既存環境のコストを可視化し、AWS移行後の費用シミュレーションを行うツールです。サーバスペックや利用状況など、実データに基づいて最適なAWS構成を提案するため、移行後のコスト効果を定量的に確認できます。TCO比較にも活用でき、投資判断を裏付ける材料になります。

AWS Application Discovery Service

AWS Application Discovery Serviceは、オンプレミス環境のサーバ情報、依存関係、利用状況を自動収集するサービスです。アプリケーション間のつながりを把握できるため、移行時の順番決定や段階移行の設計に活用できます。複雑なシステムを持つ企業ほど効果が大きいツールです。

AWS Well-Architected Framework Review

AWS Well-Architected Framework Reviewは、設計上の課題を体系的に洗い出すためのフレームワークです。移行後のアーキテクチャが信頼性、セキュリティ、運用効率、コスト最適化などの観点から適切であるかを確認できます。アセスメント結果をもとに改善項目を明確化し、将来の運用に耐えうるアーキテクチャに仕上げるために役立ちます。

アセスメント後に定義すべき移行方式と構成イメージ

アセスメントで得られた情報をもとに、移行方式と構成パターンを具体化します。業務要件・技術制約・コストなど複数の観点を整理し、最も現実的かつ効果的な移行アプローチを選びます。

移行方式の選び方

移行方式を決める際は、次の観点で判断します。

  • 業務影響:移行に伴うダウンタイムの許容度、業務への影響範囲を確認します。

  • 技術制約:レガシーOSや商用ライセンスなど、技術的に変更しにくい部分を考慮します。

  • 運用体制:AWS運用を担うチームの体制やスキルレベルを踏まえて、段階的移行か一括移行かを判断します。

  • 費用/ROI:移行コストと効果(運用削減、可用性向上など)を比較し、投資対効果の高い方式を選びます。

典型的な構成パターン例

アセスメント後の移行方式として、次のような構成パターンがよく採用されます。

  • リフト&シフト+運用改善

    • Re-hostでAWSへ移し、その後CloudWatch、AWS Systems Managerなどを用いて運用を改善するパターンです。期間が限られているプロジェクトや、まずはクラウド移行を優先したいケースに向いています。

  • 段階的モダナイズ

    • 一度AWSへ移行したうえで、段階的にAmazon RDS、Amazon ECS、AWS Lambdaなどへリファクタリングを進める方法です。ダウンタイムを抑えやすく、業務影響を最小限にしながらクラウドネイティブ化が図れます。

  • フルクラウドネイティブへの移行

    • 移行と同時にアーキテクチャを全面的にモダナイズし、マイクロサービス化、サーバレス化を進めるパターンです。長期的な運用効率や可用性向上を重視する場合や、新規開発に近いプロジェクトで採用されます。

必要な改善レベルやビジネス要件に応じて、これらのパターンを単独または組み合わせて採用することが一般的です。

アセスメントでよくある課題と失敗例

アセスメントの進め方を誤ると計画全体に影響が出ます。ここでは、実務で頻発する課題とその背景をまとめます。

棚卸しが不十分で依存関係が見えない

サーバやアプリケーション、データベースの依存関係を正しく把握できていないと、移行対象ごとの切替順序が定まらず、ダウンタイムが長期化することがあります。手作業で構成管理を進めている環境では、把握漏れが発生しやすいため、AWS Application Discovery Serviceなどを併用し、情報を正確に収集することが重要です。

オンプレ資産の正確なコストが把握できない

現行環境の実コストを把握していない状態で移行計画を立てると、AWS移行後の費用対効果を正しく評価できません。ハードウェア購入費用や保守費、人件費など、直接・間接コストを整理し、Migration Evaluatorを活用してAWSとのTCO比較を行うことで、正確に判断できます。

ステークホルダー間で前提がずれたまま計画策定

移行対象範囲、ダウンタイム許容度、費用感などの前提がチーム間で共有されていないと、設計途中や移行準備段階で認識の齟齬が表面化し、手戻りが発生します。Migration Readiness Assessment(MRA)を活用し、組織的一致を図りながら計画を整理するのが効果的です。

移行後運用の検討不足で手戻りが発生

移行自体を優先してしまい、移行後の監視・バックアップ・セキュリティ運用を十分に検討していないケースでは、AWS移行後に追加作業が発生し、結果として運用負荷が増えることがあります。AWS Well-Architected Frameworkを参考に、移行後の運用設計を事前に固めておくことで、手戻りを防ぎやすくなります。

H2:まとめ

AWS移行アセスメントは、移行プロジェクトの成否を左右する最初の重要工程です。現行環境の棚卸し、技術的な評価、コスト試算、リスク分析、移行方式の選定を体系的に進めることで、手戻りのない実行計画を組み立てられます。

AWSにはMigration Readiness Assessment(MRA)、Migration Evaluator、AWS Application Discovery Serviceなど、アセスメントを支援する公式ツールがそろっており、主観ではなくデータに基づく計画策定が可能です。これらを活用することで、移行の妥当性判断から、最適な方式の選定、構成パターンの検討までを効率的に進められます。

また、アセスメント後は移行方式やロードマップを明確にし、ステークホルダー間で前提条件をそろえることが重要です。不十分な棚卸しやコスト把握の甘さ、移行後運用を考慮しない計画は、手戻りやコスト超過につながります。

丁寧なアセスメントを実施し、AWS公式ツールやベストプラクティスを組み合わせることで、移行プロジェクトのリスクを抑えつつ、安全で着実なクラウド移行を進めることができます。



加藤 一喜
記事を書いた人
加藤 一喜

株式会社サーバーワークス マーケティング部 マーケティング1課 独立系ISPやSIerの営業としてお客様のシステムやネットワークの最適化に従事した後、サーバーワークスに入社。入社後は、電力系キャリア様の開発標準化プロジェクトや、鉄道事業者様の構内読み上げシステムの提案・導入を実施。現在はイベントマーケティングとインサイドセールスを担当。 車の洗車が趣味。 AWS Certified Database – Specialty (DBS)

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