AWS Organizations徹底ガイド|マルチアカウント管理・統合請求・ガバナンスの仕組みと使い方

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AWSの利用が拡大する中、複数のAWSアカウントをどう管理するかは重要なテーマです。AWS Organizationsは、マルチアカウント運用を効率化し、ガバナンスやコスト管理を強化できる仕組みです。本記事ではその基本機能や構成例、導入手順まで、実務で役立つ形で詳しく解説します。

AWS Organizationsとは?

AWS Organizationsは、複数のAWSアカウントを組織的にまとめて管理できるサービスです。個別のアカウントを一つひとつ管理するのではなく、組織単位でルールや請求を統合できるため、マルチアカウント運用の基盤として利用されています。管理アカウントから組織を作成し、メンバーアカウントを組み込むことで、全体を統制しながらも部門や環境ごとに柔軟な運用が可能です。

AWS Organizationsの基本機能と位置付け

Organizationsの中心となる機能は三つあります。

  1. アカウントを組織単位(OU)でグループ化し、用途や部門ごとに整理できます。組織全体のアカウント管理を階層的に行うことができます。

  2. 統合請求(Consolidated Billing)の仕組みで、すべてのアカウントの利用料をまとめ、コストを可視化できます。部門ごとのコストを分離しつつ、全体としてのボリュームディスカウントも享受できます。

  3. ポリシーによる統制です。SCP(Service Control Policies)を使えば、アカウントで利用できるサービスや操作の範囲を制御でき、ガバナンスの徹底につながります。

こうした特徴から、OrganizationsはIAMやAWS Identity Center(旧AWS SSO)のような認証・権限管理の仕組みよりも上位に位置づけられます。

マルチアカウント管理が求められる背景

AWS利用が広がるにつれ、ひとつのアカウントで開発・検証・本番をすべて運用するやり方には限界が出てきました。環境を分離しないまま運用すると、誤操作やリソースの衝突が発生しやすく、セキュリティリスクも高まります。マルチアカウント構成にすることで、アカウントごとに責任範囲を明確に切り分け、障害や設定ミスの影響範囲を最小化できます。

部門やプロジェクト単位でコストを明確に分けたいというニーズも強まっています。統合請求と組み合わせれば、部門ごとのコスト配賦と全体最適化の両立が可能です。監査対応やコンプライアンス遵守の観点からも、アカウント単位でルールを徹底する仕組みが求められています。Organizationsはこうした背景に応える形で、セキュリティ、コスト管理、ガバナンスを強化するための不可欠なサービスとして位置づけられています。


Organizationsの主な機能とメリット

アカウントの一元管理

複数のアカウントを中央から一元的に管理できることで、個別にログインして設定を行う必要がなく、管理アカウントから全体の方針を定義し、各アカウントへ反映できる点がメリットです。企業規模が拡大しアカウント数が増えても、統制を維持しながら効率的に運用できます。

アカウントのグルーピング(OU:組織単位)の活用

Organizationsでは、アカウントを「組織単位(Organizational Unit:OU)」にまとめられます。部門や用途別、開発・検証・本番といった環境別にグルーピングすることで、管理者はOU単位でポリシーを適用でき、組織全体のルールを守りつつも柔軟にアカウントを整理することが可能です。

アカウントのライフサイクル管理(新規追加/削除/管理移行)

新規アカウントを自動で作成し組織に追加する、既存アカウントを招待して統合する、不要になったアカウントを削除する、といったライフサイクル管理もOrganizationsの役割です。委任管理(Delegated Administrator)を設定すれば、一部のサービスについては特定のアカウントに管理権限を移譲でき、運用負荷の分散にもつながります。

統合請求

複数アカウントの利用料金を一本化し、管理アカウントでまとめて支払えます。個別アカウントごとのコストも可視化できるため、プロジェクトや部門単位での費用配賦が容易になります。

請求の一本化とコスト可視化

統合請求を利用すると、組織全体の請求情報をひとつのダッシュボードで確認できます。コスト全体の把握が容易になると同時に、部門ごとの明細も追跡できます。経理や管理部門は、煩雑になりがちなクラウド費用の管理を効率化できるようになります。

ボリュームディスカウント効果(料金割引の適用例)

もう一つのメリットは、利用量の合算によってボリュームディスカウントが適用される点です。たとえば、複数のアカウントでそれぞれEC2を利用している場合でも、合算した利用量に基づいて割引が適用されます。つまり、アカウントを分けてもコスト的な不利が生じにくく、全体としてのコスト削減につながります。

SCP(Service Control Policies)によるガバナンス強化

SCP(Service Control Policies)を使ってアカウント全体の権限制御を行えます。IAMのポリシーがユーザーやロールに対して権限を付与・制御するのに対し、SCPはアカウントの許可境界を定義するもので、組織全体のガバナンスを担保する仕組みです。

SCPとは?

SCPは「このアカウントでは何ができるか」を制御する枠組みです。管理者が許可した範囲外の操作は、IAMで明示的に権限を与えていても実行できません。つまり、SCPはアカウント全体に対する「上限設定」のような役割を持ちます。

適用パターン例(禁止/許可ルール設計)

代表的な使い方として、セキュリティリスクの高いサービスを明示的に禁止する、利用を特定リージョンに制限する、といったパターンがあります。また、逆に「許可リスト方式」を採用し、定められたサービス以外は利用できないように設計することも可能です。

SCP導入時の注意点

強力な仕組みである一方、誤って設定すると管理者自身が必要な操作を行えなくなるリスクがあります。そのため、まずは限定的なOUやテスト用アカウントで適用し、影響範囲を確認したうえで本番環境へ展開することが推奨されます。また、CloudTrailやConfigといった監査サービスと組み合わせ、設定状況や違反を継続的に監視することも重要です。


Organizationsの構成例と設計パターン

代表的な構成パターン

Organizationsでは、アカウントをどのようにグルーピングするかによって運用効率やガバナンスのしやすさが大きく変わります。代表的なパターンを三つ紹介します。

単純な部門別OU構成

分かりやすいのは、営業部、開発部、管理部といった部門単位でOUを切る方法です。部門ごとに独立したアカウント群を持たせることで、責任範囲を明確化しやすくなります。ただし、環境(本番・開発など)を意識しにくいため、利用範囲が大きくなると柔軟性に欠ける場合があります。

環境別(本番/開発/検証)OU構成

本番、開発、検証といった環境ごとにOUを作る方法もよく採用されます。環境を明確に切り分けることで、テスト環境での誤操作が本番に影響するリスクを排除できます。システム開発のライフサイクルに沿った管理が可能なので、セキュリティや安定性を重視する組織に向いています。

複合型OU構成(部門 × 環境別の組み合わせ)

部門と環境の両方を考慮する「複合型」が最も実務的です。たとえば「開発部 × 本番」「開発部 × 検証」といった形でOUを細かく分けることで、部門責任と環境区分を同時に担保できます。その分構成が複雑になるため、設計段階でのルール整理が欠かせません。

設計時の注意点

OUの構成を検討する際には、短期的な運用効率だけでなく、長期的な拡張性やガバナンスへの影響も考慮する必要があります。

OU設計の基本方針

OUの設計は一度固めると後から大きく変更するのが難しいため、最初に基本方針を定めることが重要です。部門や環境など、どの軸を優先するのかを明確にし、組織の成長に耐えられる構造を選ぶことが求められます。

ガバナンス/権限設計の考慮点

OU単位でSCPを適用することを前提に、どのOUにどのレベルの制約を課すかを検討する必要があります。たとえば、本番OUでは利用可能なサービスを厳格に制限し、開発OUでは柔軟に設定を許可するといった差別化が効果的です。ガバナンス設計とOU構造を同時に考えることで、セキュリティと効率性の両立が実現できます。

将来の拡張性を見据えた構成設計

現在の組織構造に合わせるだけでなく、将来的に部門が増える可能性や新しい環境が必要になるケースも想定して設計することが重要です。拡張性を意識してOUを設計すれば、後から大きな再構築を行うリスクを減らせます。

AWS Control Towerとの使い分けと併用パターン

Organizationsを導入する際には、Control Towerの役割を理解し、両者をどのように組み合わせるかを見極めることが重要です。

Control Towerの役割と特徴

AWS Control Towerは、マルチアカウント管理を容易にするためのサービスです。Organizationsの機能を基盤としながら、ベストプラクティスに基づいた「ガードレール」を自動的に適用できます。UIベースでセットアップが可能なため、専門知識が少なくてもマルチアカウント環境を短期間で整備できます。

Control TowerとOrganizationsの違い

両者の大きな違いは、制御の柔軟性と運用の自由度にあります。OrganizationsはAPIを中心とした設計で細かい制御や自動化が可能ですが、Control Towerは標準化されたセットアップを提供する代わりに、導入後に変更できる範囲が限定されます。つまり、Organizationsは自由度の高さが強みであり、Control Towerは簡便さと標準化が強みといえます。

実務での選択と併用例

小~中規模の組織であれば、Control Towerを導入して標準的なマルチアカウント管理を整え、必要に応じてOrganizationsの追加機能で拡張する運用が現実的です。一方で、大規模な環境や厳格なガバナンスが求められるケースでは、Organizationsを主体に構成を設計し、Control Towerは初期セットアップや一部自動化の補助に活用するのが一般的です。


Organizationsの導入手順と初期設定

Organizationsの有効化と初期設定

まず管理者となるアカウントでサービスを有効化します。管理アカウントを中心に組織が作られ、そこに既存アカウントを招待したり、新規アカウントを作成して追加したりすることで組織全体を構築していきます。初期段階での役割分担や命名規則を明確にしておくと、後々の管理がスムーズになります。

管理アカウントの役割

このアカウントは組織全体を統括し、請求の取りまとめやSCPの適用、OUの作成など、Organizationsの根幹となる操作を行います。管理アカウントの権限は非常に強力であるため、通常業務には利用せず、統制や管理専用として扱うことが推奨されます。

既存アカウントの参加方法

すでに運用しているAWSアカウントをOrganizationsに参加させる場合は、招待の仕組みを利用します。管理アカウントから招待を送り、対象アカウントの管理者が承諾することで組織に組み込まれます。この手順を通じて、部門ごとに独自に契約していたアカウントを一元管理下に置くことが可能です。

新規アカウント作成と自動追加の設定

Organizationsから新しいアカウントを直接作成することもできます。こうすることで、標準化された設定を持つアカウントを効率的に展開できます。また、自動追加の仕組みを整えれば、新規アカウントを作るたびに手動で設定する手間を減らし、統一された環境を保つことができます。

SCP適用の流れと管理

Organizationsの大きな役割の一つはSCPによるガバナンス強化です。SCPはアカウントやOUに対して適用され、組織全体の操作範囲を制御します。

SCPの作成/適用/確認手順

まず管理アカウントからSCPを作成し、OUまたはアカウント単位で適用します。その後、IAMで権限を持つユーザーやロールが実際に操作できるかを確認し、意図通りの制御が効いているかを検証します。この検証を怠ると、業務に必要な操作が突然できなくなるリスクがあります。

テスト導入時の注意点

SCPは強力な仕組みなので、いきなり全体へ適用するのではなく、まずは限定的なOUやテスト用アカウントで動作を確認するのが安全です。小さな範囲での検証を経て、問題がないことを確認したうえで本番環境に展開する流れが推奨されます。

運用開始後の管理と監視

Organizationsは導入して終わりではなく、継続的な運用と監視が必要です。OUの変更やアカウント移動はガバナンスに影響するため計画的に進め、ログや設定を監視して統制を維持する体制を整えることが不可欠です。

変更管理(OU・アカウント移動の影響)

OUの構成変更やアカウント移動を行うと、適用されるSCPやポリシーが変わります。影響を確認せずに実行すると必要な操作が制限される恐れがあるため、事前に範囲を把握し、関係者と調整したうえで進めることが重要です。

CloudTrail・Configなどとの連携による監視強化

Organizations環境を安定的に運用するには、監視サービスとの連携が必要です。CloudTrailで操作履歴を一元的に記録し、AWS Configでリソースの設定状況を追跡することで、ガバナンス違反や不正な操作を早期に発見できます。これらを組み合わせることで、Organizationsの統制機能を補完し、監査やセキュリティ対応を強化できます。


よくある課題と導入時の注意点

SCP誤設定によるサービス利用障害

SCPは組織全体の操作範囲を制御する強力な仕組みですが、誤設定によって必要なサービスまで使えなくなる場合があります。たとえば、ログ取得や監視に必須のサービスを制限してしまうと、セキュリティや監査の基盤が機能しなくなります。

✔ポイント

SCPはテスト環境で検証してから段階的に適用し、本番環境での影響を避ける。

OU構成が固定化しすぎて柔軟性が損なわれるケース

OUを細かく分けすぎると、組織の変化に対応しにくくなります。新しい部門やプロジェクトが立ち上がった際にOUが複雑化し、管理がかえって難しくなるのです。

✔ポイント

初期設計の段階で「どの程度まで細分化するか」という基準を定め、長期的に運用できるシンプルな構成を心がける。

アカウント分離と共有サービス管理のバランス

アカウントを分離すればセキュリティや責任分担は明確になりますが、共通サービス(ネットワーク、ログ、認証基盤など)の管理が複雑になる課題もあります。共有専用アカウントを設けるのは有効ですが、依存関係を整理しておかないとトラブルの原因になります。

✔ポイント

分離と共有のバランスをあらかじめ設計に組み込み、責任範囲を明確にする。


まとめ

AWS Organizationsは、マルチアカウント運用を効率化し、ガバナンスやコスト管理を強化できる基盤です。ただし、OU設計やSCPの誤設定には注意が必要で、最初の構成計画を慎重に行うことが欠かせません。

Control Towerと組み合わせれば、標準化と柔軟性を両立させられます。組織の規模や要件に合わせた使い分けを意識し、設計から運用までを着実に進めていきましょう。

加藤 一喜
記事を書いた人
加藤 一喜

株式会社サーバーワークス マーケティング部 マーケティング1課 独立系ISPやSIerの営業としてお客様のシステムやネットワークの最適化に従事した後、サーバーワークスに入社。入社後は、電力系キャリア様の開発標準化プロジェクトや、鉄道事業者様の構内読み上げシステムの提案・導入を実施。現在はイベントマーケティングとインサイドセールスを担当。 車の洗車が趣味。 AWS Certified Database – Specialty (DBS)

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